ここのところ何クールも継続されていて、非常に面白いと思うCMが「中外製薬」さんの「未来人からのバイオメッセージ」シリーズです。
CMはこちら→https://youtu.be/bJhAPsK0xfk
「未来人です。少し先の未来から来ました。現代人の皆さんはバイオをまだよく知らいないそうですね。」という掴みから入るのですが、実はこのコピーは感情広告としては何も訴求しません。何故かというと、ちょっと自分の中の常識に照らして考えれば、すぐ気づく事なのですが、僕達は少し過去どころか100年近くも前に発見されたペニシリンですらどの様に働くのか実はよく知りません。医師や化学者など専門家の先生はご存じでしょうが、我々大多数の一般市民は「ペニシリンは病気の原因の細菌をやっつけるもの」と何となく知っているような気がしているだけで、ぶっちゃけ「まじないは病気の原因の悪霊をやっつけるもの」と思っている縄文人と大差ありません。お医者さんやまじない師などの専門家が言うのだからそうなんだろうと思っているだけです。その心象をはっきりと自己認識している人は少ないとおもいますが、無意識下では保持しています。よく分からないものが行動を選択するための意識の表層に上げられることはありませんので、当然感情に訴える力も弱くなります。
ところが分からない点を無意識にでも指摘されると、分からないものを分かりたいと思うのも本能なので、このコピーは何処か心に引っかかります。何を言っているのかよく分からないコピーを舌っ足らずに棒読みするキャラの尖ったモデルのビジュアルが起動スイッチになって「バイオ=中外製薬」という認知が刷り込まれます。
このモデルさんは、売り出し中なのか、やたらとCMで見かけます。メインを張っていることもあれば、ここで使う意味ある?と思うような一瞬しか映らない場面でも出てきます。モデル事務所としてはザイオン効果を狙っているのかもしれませんが、マーケティング的にはちょっと意図的なサブリミナル効果に近い物も感じますよね。もしその辺りも考慮してモデル選定しているとすれば、かなり凄腕のクリエイティブ・ディレクターです。
認知広告は、未知→認知→理解→確信→行動と移行する広告効果測定のダグマー理論の2ステップ目にあたるものですが、莫大な先行投資を必要とする医薬品企業の様な業態の資金確保にとってはある意味行動広告です。中外製薬の様な知名度の高い企業が認知広告を打つという事は、主力商品や業態を転換をするという明らかなメッセージです。そういう視点でみると、それのみに注力したよくできた認知広告だと思います。商品広告を除けば穏やかな印象広告ばかりの製薬業界の中で、ひときわ目を引いたCMでしたのでブログで取り上げてみました。具体例を示して一見「理解広告」の様なフリをした「認知広告」、語りかけるコピーで「感情広告」の様なフリをした「理由広告」。色んな確信犯的仕掛けを講じた上で、実は「中外製薬はバイオ医療にシフトします」と伝えたいだけ。。お見事。
P.S.ペニシリンは細菌の細胞壁の主成分のペプチドグリカンを作る補酵素と結合して細胞壁を作る邪魔をするため細菌が満足に増殖できなくなるそうです。発病の初期でないとあまり効果がないのは、増えきってからでは増えるのを阻害しても意味がないからなんですね(^^;)